*日本基準が前提です。
会計監査をスムーズに乗り切るポイントの一つが減損会計です
会計監査の対応で、減損会計に苦労することは結構多いのではないでしょうか?
減益や赤字の予想がタブーの会社で、会計士が、「合理的で説明可能な仮定及び予測!」を叫ぶカオスな状況になっていないでしょうか?
合理的で説明可能な仮定及び予測!
・・・・・・・・
減損会計では、
1.減損の兆候
2.減損損失の認識の判定
3.減損損失の測定
の3段階の手順があり、最初の「減損の兆候」ですべてクリアになれば完封です。
「減損の兆候」でざわざわするポイントをまとめてみました。
減損会計の監査対応の理想は「減損の兆候」なしで会計監査が終了すること
減損会計は見積部分が多いので、会計士から「具体的な資料を出せ!」といわれて困ることはないでしょうか?
なるべくなら、「減損損失の測定」は当然のこと、「減損損失の認識の判定」まで進まずに、「減損の兆候」はすべての資産グループでなし、これで終わらしたいですよね。
「減損の兆候」の実務
固定資産の減損に係る会計基準 二 減損損失の認識と測定 1.減損の兆候
・・・減損の兆候としては、例えば、次の事象が考えられる。
① | 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること |
② | 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること(注) (注) 資産又は資産グループが使用される範囲又は方法について生ずる当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化とは、資産又は資産グループが使用されている事業を廃止又は再編成すること、当初の予定よりも著しく早期に資産又は資産グループを処分すること、資産又は資産グループを当初の予定と異なる用途に転用すること、資産又は資産グループが遊休状態になったこと等をいう。 |
③ | 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること |
④ | 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと |
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針 12(2)
「継続してマイナス」とは、おおむね過去 2 期がマイナスであったことを指すが、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しないと考えることが適当である。
また、「継続してマイナスとなる見込み」とは、前期と当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合を指すものと考えられる(第 79 項参照)。
当社では、
・前期と当期が赤字になり、明らかに一時的な要因によるものでない場合
・資産グループの市場価格を簡易に計算し簿価よりある程度下落した場合
・事業の縮小・撤退等の決定があった場合
「減損の兆候」があったと判断し、「減損損失の認識の判定」を検討することになります。実務はこの流れが一般的ではないでしょうか?
「当期の見込み」の意味
「当期の見込み」についてちょっと考えてみます。
「見込み」といえば来期のことですが、指針では「当期の見込み」や「当期以降の見込み」といった表現が出てきます。
期末(四半期末なら「当期の見込み」もわかりますが基準は通期を前提にしています)に締めた後、減損の最終確認をしますが、当期の実績はもうわかっています。
なぜ、「当期の見込み」なんでしょうか?
期末に限定すると「当期の見込み」はおかしいですが、これは減損は期首・期中に処理することも想定しているからだと私は理解しています。
特に減損会計を導入したときは、「平成17年4月1日以後開始する事業年度から実施」でしたが、各社期首に減損を実施しました。
導入初年度以降は、実務的には期末に減損損失を計上することがほとんどだと思いますが。
2期連続の赤字なし・資産価格の下落なし・事業の縮小等なし。それでも会計士が納得しない?
2期連続の赤字なし・資産価格の下落なし・事業の縮小等なし、となった場合、「これはさすがに楽勝のはず、「減損の兆候」はすべての資産グループでなしで終わり」と喜ぶところですが、たまにこんなことをいう会計士が現れます。
前期は黒字で当期赤字になっている資産グループXでは、なるほど、主な顧客であるA社への売上が落ちているわけですね。これが一時的な落ち込みであるという、説得力のある説明ができないようですので、『経営環境の著しい悪化』かもしれません。判定用の資料を準備してください。
はい・・・・・・
赤字になった資産グループで、来期黒字化することが明白な場合はあんまりないと思います。
「来期はどうなんでしょうねえ?」みたいな感じが普通ではないでしょうか?
そうすると、会計士からこんなことを言われて対応していると、結局、1期でも赤字になったらすぐ割引前将来キャッシュ・フローで判定!になりかねません。
減損の兆候の把握が行われるのは、対象資産すべてについて減損損失を認識するかどうかの判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したため(減損会計意見書 四 2.(1)参照)です。
赤字になったばかりでは、通常、赤字が継続するかどうか、よくわからない場合がほとんどで判定も大変なので、判定まで進むのは、2期連続赤字のハードルを超えたものに限定しているわけです。
なので、ここは、「減損の兆候」の趣旨からすると、『経営環境の著しい悪化』とは、
・一時的な落ち込みであるという、説得力のある説明ができない
ではなく、
・赤字が継続することが誰が見ても明白な経営環境の悪化
ということだと思います。
『経営環境の著しい悪化』は、そもそも、具体的な基準(2期連続赤字など)で拾えないものの中でも明らかに「アカン」やつを拾うための、行為又は計算の否認のような、包括的な網のようなものだと理解しています。
これからどっちに転ぶかわからない程度の悪化では「著しい悪化」とはいえません。
「著しい」とはそういう意味だと思います。
ここで押し切られると、赤字は即判定という、恐ろしい世界になります。
新規稼働の資産グループ
新規稼働の資産グループは、今のところ、監査も緩やかです。
指針12(4)
事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しない(第81項参照)。
一応、計画より著しく下方かみることになっていますが、結構、下方に着地しても、来年以降、状況がだいぶ変わりますので、「まあ、まだわかりませんね」くらいで終わることが多いです。
公認会計士・監査審査会(CPAAOB)の品質管理レビューでは、あらためてちゃんとやれよ、と事例に追加されていますので、これからもっと厳しくなるような気がします。
Ⅲ個別監査業務編 4会計上の見積りの監査(5)固定資産の減損
2020年7月14日公表「監査事務所検査結果事例集(令和2事務年度版)」P.124
事例2)減損の兆候の検討【NEW】
気を付けましょう。期末に急に言ってくるかもしれません。
公認会計士・監査審査会(CPAAOB)の品質管理レビュー
CPAAOBの品質管理レビューは、どこまで監査法人内でフィードバックするかは監査法人により温度感は違うと思いますが、事例集の動向で監査のさじ加減を微妙に修正してくる、反応のよい会計士もいますので注意しましょう。
かなり具体的で勉強になるので読んでおくことをお勧めします。
品質管理レビューの審査・検査 検査結果等の取りまとめ