会計基準の研究:~12.キャッシュフロー・ヘッジ

経理コラム

第9章 金融商品の評価と利益認識

資産や負債の価値をどうとらえるのか?

とらえた価値の変動を利益の概念とどのように整合させるのか?

ここでは、金融商品の評価についてみていきます。

会計目的と資産の評価

企業価値とは、負債と株主持分の企業に対する請求権の価値です。

企業の資産を事業投資と金融投資に大別し、
・事業投資は自ら将来の成果を予測して評価
・金融投資は市場の評価
して企業価値を評価します。

事業投資の将来の成果とは、例えば、アウトプットの販売による正味のキャッシュフローです。

株価と有意な相関があるか調べることを「実証」といいます。

利益の情報価値についてはおおむね肯定的な結果(Beaver[1981])が得られているそうです。

ただし、金融資産負債に限ると、ストックの時価とそれを保有する会社の株価には有意な相関が認められる一方、時価の変動で測った損益には情報価値は確認されていない(Mary E. Barth[1994])そうです。

金融資産の評価と利益認識

時価評価になじまない関係会社株式と、時価評価がふさわしい売買目的有価証券との間には、政策保有株式(持合株式)があります。

日本基準、米国基準、国際会計基準とも、包括利益のうち、「その他の包括利益(OCI)」に含め、純利益の要件を満たせばOCIから純利益へ振り替える「リサイクリング」の処理を行います。

時価評価されない有価証券

現行の会計基準では、金融資産、特に有価証券の評価と損益認識を保有目的に応じて定めています。

株式なら、売買目的、支配目的、その他、債券なら、支配目的がなく、満期保有目的があります。満期保有目的は償却原価法となります。

営業債権と金融負債の評価

営業債権は、市場の金利水準や貸倒れリスクに応じて再測定する時価評価のルールは、限られた範囲で会計基準に組み込まれています。

簿価の切り上げは、償却原価法によるアキュムレーションか、減損の戻し入れくらいです。

他方、デリバティブを除く金融負債は、時価評価と評価に基づく損益認識を一般には求められていません。キャッシュフローが変わらないのであれば、トータルでゼロになるような評価損益の認識に意味があるのか、検討が必要です。

デリバティブとヘッジ会計

事業目的に拘束されることの少ないデリバティブは、通常は時価会計となり、また、投資の性質ではなく金融商品の種類で時価会計とヘッジ会計が使い分けられています。

第10章 政策投資株式と満期保有株式

売買目的の株式や債券は金融投資のポジションとして時価で評価、満期保有債券は償却原価法、支配や関与目的の子会社や関連会社の株式は連結決算や持分法として処理します。政策投資株式は売却まで損益認識は繰り延べますが時価評価します。

保有目的で処理をわけるやり方が「取引の実質が同じなら会計処理も同じ」という実質優先原則に整合するのか検討していきます。

政策投資株式の評価と利益認識

政策投資株式については、子会社や関連会社の株式と同様、経営者の意図が最終的な拠り所として、事業目的という投資の性質に基づいて金融投資から分けられています。

経営者の意図は、情報劣位にある投資家にとって情報価値があり、意図を事実で確認できれば両者が混合した情報より価値は高くなる可能性があります。

意図を外形的にどう証拠づけるか、難しい面はありますが、特に事業提携や技術提携なら契約等で確認できるはずです。

金利変動と債券投資の成果

固定金利債券への投資の成果は、価格変動がない変動金利債券の利息収益を基準に評価されます。

必ず満期まで保有するのであれば、途中でどう評価しても、結局は取得時にキャッシュフローが確定しているので投資成果の期間配分を変えているだけです。

必ずしも満期まで保有しないのであれば、売却まで最終的な成果が決まらないので時価の変動で成果を測る意味があります。

満期保有債券と償却原価法

期間中のクーポン収入に、
・ストックを時価で評価した時は、債券価格の変動を加減
・ストックを成果の測定で評価した時は、取得時のプレミアムやディスカウントの償却分を加減して毎期の投資成果となります。

償却原価は公正価値の代理指標ではありません。

金融商品会計における評価と配分

満期保有目的の債券をどうやって売買目的と区別するのかは難問です。

第11章 公正価値会計とヘッジ会計

価格変動のリスクとヘッジ

価格変動をヘッジしている場合、本来は、ヘッジする側もされる側も、双方に通常の時価会計を適用すればヘッジ取引のための特別なルールを工夫する必要はありません。

ヘッジ会計を廃止して時価会計(公正価値会計)に一元化させれば金融商品の会計問題は解決する、という、昔から繰り返されながらいまだに大方の支持を得られない一部の主張は、トレーディング目的で保有する金融商品に限れば正しい指摘です。

キャッシュフローのリスクとヘッジ

投資の成果がポジションの時価ないし公正価値の変動で測られるケースでは、ヘッジの対象と手段の双方を時価評価して差額を利益に影響させれば自動的にヘッジの効果は利益に反映するため、ヘッジ会計という特別な手法は必要ありません。

投資の成果がキャッシュフローで測られるケースとしては、例えば変動金利付の債権の金利部分を固定金利にスワップする契約が典型的なケースです。

昔からヘッジ会計の主題となっていたのは、
・オンバランスで保有するポジションの時価ないし公正価値が変動するリスク
・オフバランスの予定取引にかかわるキャッシュフローのリスク
です。

変動金利付の債権や債務といったオンバランスのポジションからのキャッシュフローの変動はヘッジされるリスクとは考えられていませんでした。

キャッシュフローのヘッジと投機

時価の増分がその期の利益を増やす要素になります。
市場金利が上がれば反対に変動金利の支払いが増え、引き換えに受け取る金利が固定された契約の時価は下がって、下落分はその期の損失となります。

全面公正価値会計とヘッジ会計

ヘッジ会計はいらない、全面公正価値会計だけでいい、という主張に説得力がある事例があります。
固定金利債務に対し、満期の等しい変動金利債権を固定金利にスワップし、受取利息と支払利息を対応させる事例です。それぞれ時価評価すれば、時価(公正価値)とキャッシュフローのヘッジを無理に区別する必要もなく、相殺されなかった部分のみ利益に反映されます。

しかし、調達資金が事業に拘束されている負債の場合は、負債だけ時価評価しても時価評価されない事業用資産と「時価の相殺」が行われません。事業用資産にも時価評価を拡大するという主張につながります。

公正価値会計でもヘッジ会計でも、投資のリスクを開示する可能性は、投資の成果を測るという企業会計の基本的な役割の副産物と考えたほうがいいです。

第12章 キャッシュフロー・ヘッジ

金融商品の会計基準については、時価を原則としながらヘッジ会計の意義が重要な論点となっています。

キャッシュフロー・ヘッジの原型

用語を整理しておきます。
ヘッジされるリターンの種類は、「時価のヘッジ」「キャッシュフローのヘッジ」であり、
「時価のヘッジ」に適用されるのは時価会計であり、ヘッジ会計は必要とされません。
「キャッシュフローのヘッジ」に適用されるヘッジ会計には「時価ヘッジ」「繰延ヘッジ」があります。

「時価のヘッジ」と「時価ヘッジ」は違うものですので注意してください。

時価ヘッジは、ヘッジ対象の損益認識が原価の場合に、ヘッジ手段の時価を認識し、それと共通のリスク要因に基づくヘッジ対象の時価だけを認識し、相殺します。国際基準や米国基準が採用しています。

一方、繰延ヘッジは、ヘッジ手段の時価を認識し、それをヘッジ対象の損益認識まで繰り延べます。日本基準が採用しています。

保有し続けるのを取引と呼べるのであれば、それは将来のキャッシュフローを確定させてリターンの変動するリスクをヘッジする取引であり、一般にキャッシュフローのヘッジといわれるものの原型をなしています。

金利スワップ契約とヘッジ会計の方法

時価のヘッジには時価会計を適用し、ヘッジ会計をキャッシュフロー・ヘッジに限れば、繰延ヘッジに一般性があります。

外貨建てポジションの為替リスク

満期での実行を予定した為替予約は、キャッシュフローを確定させて利益に対する為替予約リスクを遮断している点で、間違いなくキャッシュフロー・ヘッジの性格を備えています。

日本基準では、「振当処理」が適用されます。

終わりに

海外の基準設定主体には「公正価値イデオロギー」が浸透しており、ヘッジ会計をやめて時価会計に一元化しようとする動きがあります。

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