会計基準の研究:~4.企業会計における評価と配分

経理コラム

第2章 利益の測定と資産の評価

はじめに/のれん価値の形成と減耗

企業が将来どれくらい稼ぐのかを予測するには、今までの投資についてどれだけリターンがあったのか?を正確に知る必要があります。

そのためには、投資額とリターン、その期間がプロジェクトごとに開示され、
・従来のパターンのプロジェクトはまだ儲かるのか?
・新しいパターンのプロジェクトがうまくいっているのか?
がわかることが必要です。

利益の情報(PLやセグメント情報)を数年間並べて、なんとなくプロジェクト別に将来の儲けがイメージできる情報開示が理想です。

ということで、必要なのは、プロジェクトごと(現在の開示ではセグメント情報)の、投資額の期間配分(つまり事業用資産の減価償却費)、売上と差額としての利益になり、それ以外の時価評価損益を利益の情報に含めるとわかりにくい、「利益の測定」に「資産の評価」を含めるとよくないね、という趣旨です。

利益の実現とのれんの減耗

将来の期待利益のかたまり「のれん」が減耗する、ということは、つまり利益が実現(=事業リスクからの解放)する、ということです。
なので、時価評価を利益の情報に含めるとすると、「事前に期待された値上がり」であれば、当初ののれんに含まれていた利益としてのれんも減耗させます。事前の期待利益「のれん」に含まれていた時価評価損益は相当するのれんも減耗し、そうでないならばのれんは減耗しない、となります。

投資のリスクからの解放

投資の意思決定は、期待される将来のキャッシュフローをリスクにみあう資本コストで割り引いた現在価値と、リスクにさらすキャッシュの大きさを比べる作業です。

企業会計でいう実現基準では、リスクを負った投資の成果がリスクから解放されて実現した事後の利益を把握します。投資家は過去の期待と事後の成果の差異を分析し、将来の期待を見直します。

企業会計の利益情報は、将来の期待を形作る上で必要となります。

事前・事後の経済的所得の概念では、将来の期待の変化をウィンドフォールとして所得の概念から除いて、事前と事後の所得を対比させます。

資産・負債アプローチと資産評価

現行では、資産・負債アプローチによる包括利益は純利益と区分し、リスクから解放されたら純利益にリサイクルしています。IASBではPLで純利益を禁止して包括利益を最終利益とする主張も強くあります。

どうなっていくのでしょうか?

純利益と包括利益の情報価値

包括利益と純利益、どちらが有用か?
均衡株価の変化への説明力という観点から、米国を中心に多くの実証研究があるそうで、純利益の説明力は確認されているのに対し、包括利益については情報価値が確認されていないそうです。

資産負債を時価評価しても、のれんは測れません。
株価が企業の資産価値そのままで評価されるようなREITなどにはいいかもしれませんが、のれんを見極めるのが重要となる企業では、投資家にとってそれほど有用な情報ではありません。

比べると、純利益は、将来の期待利益を予測する指標として価値がある、となります。

第3章 資産評価の基本原則

資産評価の歴史の話。
歴史的には、資産の評価を優先させた初期アメリカの実務が、収益・費用の対応による利益の測定からバランスシートの評価を導く近代会計のパラダイムに置き換えられたあと、再び資産・負債と評価を先行させるアプローチが支配的になったといわれています。

アプローチの違いを単純化した表現すると、
・利益の測定があり、その結果として資産・負債が評価されるのが収益・費用アプローチ
・資産・負債の評価があり、その結果として収益・費用が測定される資産・負債アプローチ
となります。

資産の評価と認識の包括性

資産の評価と包括利益の関係についてのおさらいです。

投資の性質と資産の価値

所有する資産は、自己創設のれんが「代替的な機会への投資」を上回っている状態だとすると、一般に「時価」は保有者にとって価値の指標にはなりません。包括利益でも、事業に使う実物資産の時価評価はあまりテーマになっていません。ここもおさらい。

資産の評価と投資の成果

企業所有者の経済的所得は、将来の企業利益を先取りした企業価値の増加所得です。
企業利益は、現在の成果であり、将来の成果を予測して企業価値を評価するための基礎となります。
ここも繰り返し。

会計情報における事実と予測

会計基準では、見積もりの要素を急速に拡大させてきましたが、それは将来の事象を予測するというより、現在までの隠された事実を開示するためといえます。

おわりに

包括利益といえども、すべての企業価値を含むわけではなく、事業用資産に生じた自己創設のれんの変動は含まれません。事業用資産の価値は経営者も投資家もそれぞれの立場で評価します。

開示される会計情報に期待される役割は、投資家の評価に役立つ基礎データを提供することで、経営者の評価を投資家に伝えることではありません。のれん価値は企業価値の一部ですが、企業買収などで対価を払って取得した場合を除き、会計上それは認識されませんし、そうする理由もありません。

補論 事業用資産の時価評価

数値例で補完します。

012
0▲180
1+100+110
2+100+121
+20
資本コスト10%

減価償却費90で配分

012
0
1+100
▲81.8
▲16.4
+110
▲90
▲18
2+100
▲74.4
▲7.4
+121
▲90
▲9
+20
資本コスト10%

第4章 企業会計における評価と配分

最近は、時価ないしは公正価値による評価の範囲が拡大されてきましたが、1930年代の米国では、崩壊した資本市場を前に、それまでの時価評価の実務が批判されました。

そうやって、時価主義と原価主義をいったりきたりしているようにもみえますが、そこにはどういった理屈があるのか、みていきます。

資本利得と企業の価値

1920年の米国最高裁判所判決Eisner v. Macomber, 252 U.S.189
資本に生じた所得ではなく、資本からもたらされた所得を定義
「所得は資本か労働、あるいはその両者の結合から引き出された利得として定義されよう。ただし、それは資本資産の売却あるいは転換を通じて獲得された利益を含むものとして理解されなければならない」
「利益の実現」という企業会計における伝統的な概念の原型をなしたとも考えられています。

最後に、「たかが会計」の福井さんが引用されています。

資産価値の変動がキャッシュフローの期待よりも、むしろそれを割り引く資本コストの変動に大きく依存する

評価と配分のパラダイム

ジョージ・オリバー・メイは、ニューヨーク証券取引所宛の、米国会計士協会(AIA)の報告(1932年提出⇒1934年公表)で、
1.貸借対照表から損益計算書へ
2.価値からコストへ
3.保守主義から継続性へ
を会計におけるほとんど革命的な変化(重点移行)として挙げています。

「それは、よく誤解されるような時価から原価への評価基準の移行よりも、むしろ価値の評価からコストの配分というパラダイムの移行を意味するものとみたほうがよい」そうです。

原価の配分と資産評価/おわりに

近年の時価評価の拡大は、コスト配分を否定したものではありません

原価主義には、原価の期間配分と、原価を尺度にした資産価値の評価の意味があり、近年の時価評価の拡大は、資産価値の評価が原価から時価に移ってきている動きとなります。

タイトルとURLをコピーしました