破産した場合の貸倒れ

経理コラム

債権が回収できないと貸倒損失になります

うちの会社では取引先が大きいところが多いためか、あまり債権が回収できなくなることはありません。そのため、管理がルーズで、経理としてガツンというべきところなのですが、いわなくてもいつの間にか回収できてしまうので、ルーズな管理がそのまま続いてしまっています。

そんな感じですが、なかには規模の小さい取引先もあり、たまに貸倒損失が発生します。

報告書を読むと、人生いろいろですね。中には、連絡は普通にとれるし、営業も普通にしているけど、法人を複数持っていて、「そちらの会社はもうだめですね」みたいなふてぶてしいことをいう人もいます。会社がうまくいかなくなると、資産を別会社に移し債務は集めてから踏み倒します。うちの会社はホワイトなので、そうなると、「まあ、しょうがない」ということで営業も無理なことはせず、すんなり回収を諦めます。

貸倒損失は、法人税基本通達で、法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式上の貸倒れ、と3パターン(9-6-1, 9-6-2, 9-6-3)定められていますが、破産の場合は法律上の貸倒れではなく事実上の貸倒れになります。ちょっと紛らわしいところなのでまとめてみました。

貸倒れの3パターン

国税庁のサイト

法律上の貸倒れ事実上の貸倒れ形式上の貸倒れ
通達番号9-6-19-6-29-6-3
対象金銭債権
(売掛・貸付等)
金銭債権
(売掛・貸付等)
売掛債権に限定
損金経理不要必要必要
備忘価額なしなしあり
損金算入債権切捨部分債権全額債権全額-備忘価額

法律上の貸倒れ

①会社更生法の更生計画、民事再生法の再生計画の認可決定
②会社法の特別清算に係る協定の認可決定
③債権者集会等の関係者の協議決定
④債務者の債務超過が継続し弁済ができない場合の書面による債務免除額

④は①~③と違い、「弁済ができない場合」かどうか、割と曖昧な部分もあるので、貸倒損失が否認され寄附金扱いになる可能性もあります。

④「書面」で伝えるほか、「公示送達」を選べる場合もあるそうです。
 (税務通信 2021.4.26 No.3652 「法律上の貸倒れと公示送達」)
 東京簡易裁判所

貸倒損失を損金に算入することができるのは、貸倒れの事実が生じた事業年度のみです。

税務調査でもチェックされる事が多いので要注意です。営業からの貸倒れの申立は内容をよく確認し、「あっ、当期じゃない!」とわかった場合は、更正の請求か、次回の税務調査で職権による減額更正をお願いするか、税理士に相談してみましょう。

事実上の貸倒れ

債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができます。

なお、

・担保物処分後
・保証債務履行後

でないとだめです。

損金算入の時期は、「明らかになった」を「会社が確認できた」と理解しています。法律上の貸倒れと比べると解釈の余地があると思います(個人の見解。具体的には税理士に相談してください😅)。

法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局)に例示があります。

①破産
②行方不明
③債務超過等

面倒でお金もかかる法的整理はしないまま、払うものも払わずにガラガラ閉店状態の会社は多いです。どのくらいまで営業が回収に頑張ればいいのか、企業文化、営業マインドで各社結構違うと思います。

ただ、破産は違います。はっきりとした法的な手続きです。破産は法律上の貸倒れではなく、事実上の貸倒れになっているので要注意です。後で説明します。

形式上の貸倒れ

債務者の状況がそれほど悪化していなくても貸倒れにできます。

①継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、
 取引を停止した後、1年以上経過
②同一地域の売掛債権

2020年4月から改正民法が施行、短期消滅時効*は廃止され、「権利を行使できるときから10年」又は「権利を行使できることを知ったときから5年」いずれか早い時期の消滅時効に統一されましたが、形式上の貸倒れの「1年以上」は特に見直しなくそのままです。

*職業別に定められていました(飲食料等は1年,卸売商人等の売掛代金等は2年,医師等の診療報酬は3年)。

税務通信 3609号  2020年06月15日
「短期消滅時効の廃止も形式上の貸倒れは従来通り」

形式上の貸倒れはウチの会社では認められない

ウチの会社では、貸倒れが少ないので、個人相手の部門を除き、形式上の貸倒れパターンは社内的に認められません。

相手が営業を継続している、相手と連絡がつく、くらいなら「あきらめるな!」というスタンスです。

破産した場合の貸倒れ

国税不服審判所で破産の場合の貸倒れについて裁決がありました。(結構昔の話)

裁決事例集No.75(貸倒損失の帰属事業年度 平成20年6月)

法人の破産手続においては、配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はなく、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、出すところの廃止決定又は終結決定があり、当該法人の登記が閉鎖されることとされており、この決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することからすると、この時点において、当然、破産法人に分配可能な財産はないのであり、当該決定等により法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が滅失したとするのが相当であると解され、この時点が破産債権者にとって貸倒れの時点と考えられる。

『なお、破産の手続の終結前であっても破産管財人から配当金額が零円であることの証明がある場合や、その証明が受けられない場合であっても債務者の資産の処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当な期間がかかるときは、破産終結決定前であっても配当がないことが明らかな場合は、法人税基本通達9-6-2を適用し、貸倒損失として損金経理を行い、損金の額に算入することも認められる。』

破産手続きは法的整理ですが、債権を消滅させる手続きではありません。

ややこしいですが、このため、法律上の貸倒れとはなりません。しかし、破産で直接的に債権は消滅しないものの、法人の消滅に伴い滅失する、ということのようです。

この裁決について、『破産についても法律上の貸倒れ(9-6-1)に該当するので損金経理は必要ない』という解釈をネットの解説記事で見たことがあります。

法人税解説本の著者(国税庁のご担当者)に出版社を通して質問したことがあります。その方の著書では、法人税基本通達逐条解説にあるように、破産は9-6-2と解説しています。

『国税不服審判所の意図は不明ですが、裁決書を見る限りでは、個別の事情を踏まえた上で、破産法人に対する金銭債権の貸倒損失の時期、すなわち、法人税基本通達9―6-2における「全額回収不能が明らかになった日」の事実認定について判断したものとも読めるのではないでしょうか』

とのご回答でした。

とりあえず、国税庁の解釈は、破産は事実上の貸倒れということで変わっていないと思われます。9-6-1と9-6-2では、損金経理が必要かどうか、の違いくらいですが、期末時点ではっきりしておらず、タイミングで決算に間に合わなかった、とならないように注意しましょう。確定情報がなくても決算に織り込んだ方がいいかもしれません。引当をしていれば損益インパクトはないので、社内のハードルはそれほど高くないと思います。

税務研究会の記事 第216回 法律上の貸倒れと損金算入時期

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