会計基準の研究:~1.企業利益の基礎概念

経理コラム

若かりし頃、えらく衝撃を受けた本。(斎藤静樹先生)

自分の仕事(経理)がなぜ社会に必要なのか、もう一度、あの本に教えてもらおう、などと、経理おじさんの自分探し?みたいな、ちょっとイタイ気持ちで再び手に取った。
現状に満足している経理脳を揺さぶるのか、どうか。

読んでみると、やはり難しい。
ちゃんと理解したとはいえないので、断片を切り取ってメモしておきます。

序章 会計基準研究の視点

ディスクロージャー制度は、資本市場における情報の非対称を緩和する仕組み・・・
情報劣位にある投資家の意思決定が改善されるだけでなく、
投資家の保守的なリスク評価がもたらす資金コストの上昇を、経営者もまた回避することが期待されている

1はじめに

まずは基本を押さえる。
とはいえ、古い古いJTCの弊社では、資本市場を資金調達の場としてまったく使っていないので、「資金コストの上昇」が全然ピンと来ない。決算の出来不出来で、目に見えて資金コストが変われば感覚的につかめる理屈なんでしょうが、なんだか絵空事に思えてしまう。

会計研究の大きな流れになっている価値関連性、つまり開示される情報と株価ないし株式リターンとの関係をめぐる実証

2会計研究における規範と実証

単純に予想より増益なら株価上昇、ということでも、「親会社株主に帰属する当期純利益」の増益と「包括利益」の増益で変化を比べてみる、とか面白いかもしれません。というか、包括利益に価値関連性がないことがわかって廃止になってほしいです😅

ESG経営とか、SDG’sとか、株価と「価値関連性」はあるのでしょうか?

基準間の競争制限が帰結する基準の品質低下は、米国会計学会(AAA)の委員会が正しく指摘するとおり、統一のための統一に潜在する重大な危険にほかならない

3会計基準における退化と進化

複数の基準で競争することが望ましい、ということかもしれませんが、今の世の中では、資本市場がまずあって、付随して会計基準がある関係になっており、米国の資本市場は米国基準、それ以外(ヨーロッパ・中国等)は国際会計基準に収斂しています。

日本だけの日本基準の運命は?

資産・負債アプローチや公正価値測定が、もともと解決しようとしていた課題から切り離されて基準設定主体に承継されたため、その迷走が予測不可能な変化を基準にもたらしている面はある

3会計基準における退化と進化

そうなんですね。
そう考えると、IFRSにすり寄った(直訳っぽい変な日本語の)新しい会計基準の導入があったときの心構えが違ってきます。

ISRS由来の新しい”会計基準”だ~

しょせん、「迷走」なわけですから、みなが騒いでいるのを一段上の高みから「騒いでおるの」とか、達観して眺めることができそうな気がします!

総論 第1章 企業利益の基礎概念

少なくともある時期までは、会計の「重心」を利益としたリトルトンの言葉が象徴するように、企業利益の概念に企業会計ないし会計基準の原点たる地位が与えられてきた。それを基礎にして、利益を測定・開示するルールが体系化されていたのである

1はじめに

利益ってなんだろう?

企業の利益とのれん価値

資本設備Kを購入し、正味キャッシュフローCを得る投資プロジェクトを想定し、企業利益と比べています。

第1期\(:Y_1=C_1-(V_0-V_1)\) または \(\Pi_1=C_1-(K_0-K_1)\qquad (1.1)\)
第1期\(:Y_2=C_2-(V_1-V_2)\) または \(\Pi_2=C_2-(K_1-K_2)\qquad (1.2)\)

ここでいうY系列の利益 \(Y_1,Y_2 \) は、それぞれ期首の資本価値 \(V_0,V_1\) に割引率をかけた資本コストないし利子の額に相当する

第1期のキャッシュインだけ注目し、\(C_1\)110,資本コスト=0.1として第1期を考えると、
\(C_1\)110-(\(V_0\)100-\(V_1\)0)=10
\(V_0\)100×0.1=10
となり、Vから現金になり成果が確定します=利益は資本コスト分

第2期のキャッシュインだけ注目し、\(C_2\)121,資本コスト=0.1として第1期を考えると、
\(C_1\)0-(\(V_0\)100-\(V_1\)110)=10
*第2期のキャッシュインなので第1期のキャッシュインはゼロ
\(V_0\)100×0.1=10
となり、Vが資本コストの分だけ増加し利益となります

Y系列の利益は企業利益と動きがだいぶ違います。

したがって、もし当初ののれん\(G_0\)を時点0の利益としてYの利益系列に加えれば、2つの系列の利益は2期間を通算した総額で同じ大きさになる

両者をつなぐのれんは、企業の利益としていずれ実現される超過リターン(資本のコストを超える利益)の期待であり、その期待が実現に先立って企業所有者に所得をもたらしているのである

Y系列の利益イメージ
・取得時点 のれん⇒利益
・時の経過 資本コスト⇒利益
Π系列の利益とは、総額では「取得時点の”のれん”」が差異となる
キャッシュイン総額が同じなので、費用側の差異が利益の差異になる
Y系列の利益は、資本設備の支出とキャッシュイン総額との差額(企業利益)を、「資本コスト」と「のれん」(資本コスト超過リターン)に区分し、「のれん」を取得時\(V_0\)に含めている

のれんの自己創設と有償取得

企業買収の「のれん」を考えます。

現金買収

被取得企業の株主に対して「のれん」を清算して現金を支払います。
将来の企業利益は「のれん」の償却と相殺され純資産に影響しません。

時期借方貸方
取得時のれん現金
取得後償却のれん
現金売上

株式買収

被取得企業の株主に対して取得企業の株式を交付します。

時期借方貸方
取得時のれん資本
取得後償却のれん
現金売上

現金買収と株式買収の比較

買収がなければいずれ「企業利益」となるはずの、被取得企業のオフバランスの「自己創設のれん」は、

現金買収では、
オンバランスの「のれん」と「対価となる有形価値(現金)の流出」となります。
被取得企業の株主は、資本利得が実現します。

株式買収では、
オンバランスの「のれん」と「資本」になります。
被取得企業の株主は、まだ資本利得が実現しません。

問題は、現金買収のケースと違って継続している同じ事業の成果が、企業結合を境に利益から資本へ性格を変えてしまうことにある。
それを前節の基礎概念に照らして解決する(利益に計上する)には、
① 株式による企業買収で生じた「のれん」のうち、自己創設に当たる分を
  はじめから資産に計上しないか、
② 仮に計上してもそれに伴う純資産の増分を資本や利益から除き、
  「のれん」が償却されるのに応じて振り替えていくか、
③ あるいは計上した「のれん」を費用化せずに(償却や減損処理もせずに)
  いつまでも資産にとどめるか、
のどれかしかないであろう。

3のれんの自己創設と有償取得
時期借方貸方
取得時
取得後現金売上(自己創設のれんの実現)
①はじめから資産に計上しない
時期借方貸方
取得時のれんその他の包括利益(OCI)
取得後その他の包括利益(OCI)のれん
現金売上
②リサイクル方式
時期借方貸方
取得時のれん資本
取得後現金売上
③資本も利益も計上する

(注)
本文にある「自己創設のれん」は、被取得企業の「自己創設のれん」を指していると解釈しています。
[補注]にある下記「シナジー」に係る取得企業の「自己創設のれん」ではないと考えていますが、違っていたらすみなせん😅

シナジー

企業買収では、買収により取得企業側で収益性が高まる「シナジー」を期待します。
この「シナジー」効果が買収価格に反映された場合、厳密には取得企業の「自己創設のれん」がオンバランスになってしまいます。

現金買収に比べ、株式買収はよりプレミアムが付くことが多いので、この「シナジー=取得企業の自己創設のれん」がオンバランスになってしまう問題が多く起きます。

「シナジー」=自己創設のれん計上問題は、現金買収でも株式買収でも起こることで、より株式買収で起こりやすい(現金買収よりプレミアムが付きやすいので)、と理解しましたが、(またもや)違っていたらすみません😅😅

[補注]・・・現金買収との比較はともかく・・・

とあるので、
「シナジー」を見込んで取得企業側の「自己創設のれん」分の対価を支払うのは、
現金買収でも起こりうる
株式買収では一般に現金買収と比べプレミアムがつくのでより起こりうる
と理解しています。

資産の価格変動と評価差額

資産の価格変動に伴う評価益を計上するパターン(現行の会計では事業用資産の切り上げはしません。念のため)では、のれんの要素は除いているのでΠ系列で考えます。

貨幣価値の水準はそのままで、資本設備だけ資産価格が上昇した場合

PLでは、いったん、評価益を計上し、以降、相当分が減価償却費になります。BSでは、利益剰余金と別に評価差額を純資産に含め、利益にリサイクルしていくことが考えられます。

貨幣価値が下がり一般的な価格水準が上昇した場合

ここで、貨幣価値を一定とするこれまでの前提を取り除いてみよう。
貨幣価値が下がり一般的な価格水準が上昇したことに伴う保有設備の値上がりは、その相対価格(個別価格)が上昇したケースと違って、当該資本設備から生み出されるキャッシュフローの名目額を平均的には同じ率だけ上昇させる。
・・・
自己資本であれば、維持すべき資本の切り上げに評価益が充てられる。
借入資金については、購買力損失が生じても借手は名目額を返済すればよいが、元本の切り上げを免れる利益(債務者利益)は、インフレに伴う利子費用の上昇で相殺されていく。

まあ、そうですね。

資本と利益の区分と実現基準

以上のように現行の会計ルールでは、継続企業に生じたのれんや評価益が、未実現の間は認識されないまま、実現を待ってすべて利益に算入されている。
・・・
再評価(再測定)の結果として生ずる純資産の変動については、その性質の理論的な分析が必ずしも十分に行われているわけではない。

「資産価値の変動を最終的に実現させた取引の性質に基づいて一括処理する現行会計基準の枠組み」について考えてみましょう、ということです。特に”刺さらない”のでスルーです。

終わりに

資本と利益の区分について、「のれん」と「資産評価差益」を素材に、企業結合のケースで考察しています。

現行の会計ルールでは「それを発生させた事実よりも、それを実現させた取引に制約される仕組み」になっていますが、どう考えますか?との問いです。


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