不正会計:グレイステクノロジー

経理コラム

結構、ツイッターでも話題になっている案件、よんでみました。

しかし、調査委員会は短い期間(P.3)でまとめないといけないので大変ですね。
調査報告書(2022.1.27)
2022年3月期第2四半期報告書の提出未了及び当社株式の上場廃止の見込みに関するお知らせ(2022.1.27)

上場廃止

結末としては、2022年1月27日までに2022年3月期第2四半期報告書が提出できなかったため、上場廃止となりました。

東証の人
東証の人

こんなひどい粉飾をしていたのか!ふざけるな!

上場廃止!

これくらい言ってほしいところですが、粉飾の内容がひどいので、東証として上場廃止の判断をしたわけではありません

「四半期報告書の提出」という金融庁様のルールを守らないので上場廃止、という理屈です。

情けない・・・

調査の方法

調査は外部機関から指摘を受けて始まった(p.1)そうです。どこから指摘があったのか、気になりますね。

調査は任意での関係者のご協力ベースで行っています。なかなかもどかしいと思います。関係者口座の入出金の資料は一部の関係者から提出を拒絶されたらしいです。(P.5)
ただ、役職員の会社貸与のPC、携帯や、メールサーバ、Teams履歴を調査(デジタル・フォレンジック調査P.3,別紙3)したらしいですが、そういうのは了解を得ないで行ったようです。(と読める)

しかし、経営会議・取締役会の「録音データ」が保存されていたそうで、空気感はばっちり掴めたのでしょう。

ただ、取引高及び残高確認状は「時限性や有効性、実施した場合の当社の事業への影響等を鑑み」送付していないとのことです。(P.6)

残高確認は本件では実施されていませんが、実在性を確認する重要な手続きなので、残高確認にはちゃんと回答しないといけませんね。

創業社長の執念

手口としては、売上の前倒しや架空売上・偽装入金です
偽装入金とは、社長等が自己資金で入金することです(ほとんどが創業社長)。
会社が成長⇒ストックオプションで大金を得る⇒そのお金を売上として入金⇒会社が成長・・・
横領を誤魔化す不正の事例は多いですが、このパターンはなんともびっくり!

・2022年4月13日 創業社長死去(この時点では会長)
・2022年11月 外部機関の指摘で社内調査が開始
・2022年11月9日 特別調査委員会の設置
創業社長がご存命の時にはバレなかったようです。
(ある程度の関係者までは断片的にはバレていたけど表沙汰にはならなかった)

粉飾の成果?としては、2020年11月26日には時価総額が1,000億円を超えました。
P.28にはこの説明としてYahoo!ファイナンスのデータが示されています。
さすがにYahooには掲載の許可を得ていると思いますが、こういう用途なら許可がでる(若しくは対価を払っている?)みたいですね。

創業社長の資産管理会社は10億円以上もテレビCMなど広告に支出していたようです。(会社側は負担ゼロ。P.30)

会社の雰囲気

営業は、上場企業を中心に「電話で営業をかける」スタイルです。(P.25)
個人的に嫌いなタイプの会社です(笑)。

経営会議・取締役会での発言(録音してあったので正確な記録)
「今、全体的に揺らぎを与えてるんですよ。・・・全体的には、中堅中途、ここもガンガン揺らぎを与えて、辞表出るかなあって。」
「もうほぼほぼ中途はほとんど解雇しろ。そのつもりで、ガンガン。すっごい、いい雰囲気、会社の中。あっはっはっは(笑)」
劇画的なヒールっす。

こんなパワハラ発言が飛び交う雰囲気なので、当社役職員は約40名くらいのところ、17年6月から21年8月までの4年間で63名が退職しています。(P.107)

経営会議・取締役会での発言
「・・・少々難ありの業者でも使え。・・・100%クレームもらってどうってこたーねえだろうよ。俺はクレームなんて全然怖くもなんともねーんだよ。・・・ビビらせんだよ。」
ビビりました。

登場人物

創業社長の配偶者が「総務部長」(ただし総務部という部自体は存在しない)という肩書で経理業務を取り仕切っていました。(P.11)
存在しない部の部長が取り仕切る開示情報?
中小企業では、お金の出し入れは、信用できる家族(奥さんなど)が担当することが多いそうです。

暴走社員L
社員Lは退職した後、社長からの圧力・指示に基づく架空売上の偽装入金の自己負担に対する和解金として44百万円を社長から受け取っています。(P.61)
創業社長の後に社長になったB氏からは、「逃げても、地獄の底まで追いかけます」(P.81)とメールで脅されていますが、逃げ切りましたね。

決算業務を担当していた非常勤の会計士さんからみたグレイスはどう見えたのでしょう?
いろいろおかしいと思ったのではないでしょうか?
例えば、妄想ですが、こんなこともあったのではないでしょうか。

妄想1
決算を締めて創業社長の奥さん(決算業務を取り仕切っている)に報告すると、「業績予想に届かない!」と大騒ぎになり、社長など幹部が営業部門に罵倒、叱責を浴びせ、「今から何とかして売上を上げろ!」と命じているのが耳に入る。
しばらくすると、「追加計上があります」と、ちょうど業績予想を超えるくらいのちょうどいい売上・利益の計上が現れる。

妄想2
「ゼロ円納品書・受領書」で売上を計上している。
必要な場合もわかるけど、ほとんどの場合「完成品を納品していない段階で顧客からサインをもらう方便」になってる気がする。普通に考えるとおかしなことをしているけど、まあ、いいか。
(決算業務だけ、なら「ゼロ円納品書・受領書」を目にしていない可能性もあります)

妄想3
監査法人の対応をしていると、売上の根拠とか聞いてくる。「ゼロ円納品書・受領書」が根拠なんだけどいいのかな。「ゼロ円納品書・受領書」すらもらっていないけど、総務部長(創業社長の奥さん)が製作がある程度進んでいるだけで売上の計上をOKしているけど、どう説明しようかな。
(決算業務だけで、直接、会計監査人に対応していない可能性もあります)

妄想4
創業社長や総務部長の怒号が飛び交い、必ず予算が達成され、約40名の会社なのに4年で63名もやめていく。なんか変だな?

などなど。妄想ですが、こんなことがあれば気づきますよね。ありそうだし。

会計監査人への偽装工作

架空売上では、
売掛金が回収遅延になる⇒会計士がざわつく⇒偽装入金
という動きになっていたようです。

偽メール
暴走社員Lは、顧客のメールアドレスを偽造して偽のメールのやり取りを示したりしていたそうです。(P.75)

偽装入金
会社周辺からではなく、顧客の本店のあるところまで赴き、入金していたそうです。(P.75)

残高確認状の回答偽装
「弊社の監査法人からの連絡で、今年の残高確認を間違えて発送してしまったことが判明致しました。大変恐縮なのですが、封を開けないまま、私に戻して頂けますと非常にありがたく存じます」といったメールで顧客から回収し偽造した社印で回答する。
顧客に虚偽の説明をして相違なしとの回答での提出をお願いする。
など行っていたようです。(P.76)
このメールの文章、なかなか上手い。そうなのかな、と思わせます。

受注内容確認書、受領書の偽造
印鑑や電子印の偽造や、過去の署名押印を切り取り、貼り付ける、など。(P.77)

納品物の偽装
ダミーのデータを準備

KAM(監査上の主要な検討事項)

何が書いてあるのでしょう?
不正の疑念につながるようなことが書いてあるのでしょうか?

書いてあったのは、蛍印刷㈱の取得に伴い計上した「負ののれん」についてでした。(2021.3)
無難過ぎる。

感想

いやあ、ひどいものです。
監査役、会計監査人はほとんどお咎めなしだと思います。
本当に責任が軽いですね。

ただ、粉飾はどこかBSが歪みますが、実際に社長が「架空売上」に対して「偽装入金」してしまうので歪みは解消してしまいます。会計監査人については、不審な点は多いものの、擁護論がでても不思議ではないくらい、粉飾を確信するに至るのは難しかったと思います。

監査役は、会社の中にいて、創業社長の恫喝、コンプラ無視の発言、態度、期末に計上される不自然な大口案件の売上、など見ており、調査する権限もあります。監査役は厳罰にすべきだと思います。
厳罰にすると、すぐ、成り手がいなくなる、という話が出てきます。しかし、成り手がいなくなるから緩くする、では意味がありません。
厳罰にする⇒成り手がいなくなる
⇒成り手がいなくなったので厳しいことをいう監査役をしょうがなく受け入れる(報酬も上がる)
という方向にもっていくべきです。
厳罰にならないから仕事をしない監査役だらけになっていると思います。

会計監査人については、残高確認がポイントだったと思いますが、顧客から回収して会社側で回答したり、虚偽の回答を依頼していましたので、現状の仕組みでは見抜けないかもしれません。
顧客から回収して会社側が成りすましで回答したのは、
・Balance Gatewayで成りすましできない仕組みにしていく
・ペポルで請求書の送信・受信(顧客の承認含む)を確認できる仕組みにしていく
また、残高確認へ虚偽の回答を依頼していたことについては、
例えば回答内容について回答する側の企業の内部統制の対象にする(難しいですね)
などの対応が必要だと思います。

タイトルとURLをコピーしました