民事信託を活用した相続・事業承継【①概要と4つの機能】

経理コラム

「民事信託を活用した相続・事業承継」の記事
民事信託を活用した相続・事業承継【②税務】

税務通信の連載

税務通信の連載「税理士先生が知っておきたい民事信託を活用した相続・事業承継」(毎週の連載ではなくたまに掲載されてます。連載はまだおそらく続いています)が非常に参考になったのでまとめてみました。ウチの会社では、オーナー企業との取引も多く、M&Aや出資などの話になると相続・事業承継も関係してきます。

とはいえ、たまたまなのか、ウチの会社の取引先で私が聞いた範囲では、相続・事業承継に民事信託を活用した例はまだありません。民事信託がどれほど普及しているのかよくわかりませんが、頭の引き出しに入れておきたいと思います。

もちろん、相続・事業承継は、サラリーマン経理が普段扱う業務ではなく、具体的には専門の税理士に相談すべきですが、『できること』をざっくりでも頭に入れておくと結構な武器になると思います。

信託法の改正

信託法の改正(2007年9月施行)により、従来ではできなかった、民事信託を活用したスムーズな財産承継・事業承継のスキームが可能になりました。結構前の話です。

信託の基本

委託者:財産を預ける者

受託者:管理する者

受益者:利益が帰属する者

委託者・受託者・受益者が合意すれば信託の内容は変更できます。

商事信託と民事信託

商事信託は受託者が営業として営利目的で不特定多数から反復継続して信託を受託する場合で、信託業法の規定の適用を受け、免許も必要です。

民事信託は商事信託(イメージとしては信託銀行や不動産信託会社など大きな会社に高額な手数料を払って行う信託)以外の信託です。
民事信託は信託業法の縛りもなく、免許もいりません。

弁護士、司法書士、税理士などの専門家に関与してもらいたい場合
受託者になってもらうと、信託報酬はなくても関連する業務で報酬を得ているため営業として受託しているとみなされる可能性があります。そこで、受託者を別の人にして受託者を監督する信託監督人になってもらうといいそうです。

やってはいけない信託

委託者、受託者、受益者は柔軟に設定できますが、受託者と受益者を同じにして1年継続すると信託は終了します(信託法163)。財産の管理と利益が同一だと通常の所有権と変わらないためです。

信託財産の所有権と課税

所有権は受託者に移転しますが、課税上は経済的利益を持つ受益者が信託財産を有することになります。

事例1
アパートの管理を子供に任せ、収入は自分に入るままにする
委託者=自分
受託者=子供=所有権
受益者=自分 ★経済的利益(自分⇒自分)は変わらないので課税なし

事例2
アパートの管理は自分で継続して行うが、収入は子供に入るようにする
委託者=自分
受託者=自分=所有権
受益者=子供 ★経済的利益(自分⇒子供)が移転するので贈与税

機能① 遺言代用機能

委託者の死亡時に効力が発生する「遺言信託」や委託者を受益者とする自益信託で死亡時に受益者を変更する「遺言代用信託」により、遺言の代わりとなります。遺言と比べると手続きはスムーズになるようです。

機能② 跡継ぎ遺贈機能

受益者連続型信託を活用すれば、信託効力発生時から30年経過後最初に発生する相続まで、受益者が死亡した場合の次の受益者を連続して指定することができます。

遺留分への配慮は必要
遺言による相続と同様に、遺留分減殺請求の対象になりますので、遺留分に配慮した信託設計が重要になります。

機能③ 財産管理機能

信託なので当たり前ですが、財産管理を他の人に任せることができます。

「代理」との比較
信託・代理とも財産管理・財産処分を他の人に任せますが、「代理」では本人*も財産管理・財産処分を行うことができます。信託はできません。
*本人(任せる人)は、信託では委託者、代理では委任者と呼びます

「成年後見」との比較
「成年後見」は「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」について「家庭裁判所の審判」により成年後見人を選任し行う、となっていて、自分の意思で始めることができない点でだいぶ違う制度です。

機能④ 権利多様化機能(同族会社の事業承継)

所有権と収益受益権を分ける

信託では、所有権は受託者に、収益受益権は受益者に、分けることができます。

委託者(財産を預ける者)

受託者(管理する者)=財産の名義人=管理処分する所有権

受益者(利益が帰属する者)=財産からの経済的利益を受ける収益受益権

株式の議決権と配当権をわける⇒同族会社の事業承継に使えます!
オーナー企業の相続・事業承継絡みの出資話に巻き込まれることもあるサラリーマン経理としては、ここに注目です。

株式の名義人となり議決権を行使する権利と、その株式から得られる経済的利益を受ける収益受益権にわけることができます。

同族会社の株式の場合
委託者(財産を預ける者)

受託者(管理する者)=後継者(すべての議決権を行使できる)

受益者(利益が帰属する者)=後継者以外の相続人も設定できる(遺留分に配慮)

議決権を後継者に相続税の負担なくすべて引継ぎ、後継者の会社支配をゆるぎないものとし、遺留分に配慮して受益者を設定します。後継者争いによる会社の分裂を抑止できます。

土地の収益受益権と元本受益権を分けて売却を避ける
土地を残しつつ財産を分ける場合、元本受益権は長男が相続し、他の相続人は期間限定の収益受益権を相続すると、土地を売却せずに財産をわけることができます。
相続税は、評価額を収益受益権と元本受益権にわけて課税されます。

しかし、これを受益者連続型信託にすると、収益受益権を相続した者が評価額で課税され、元本受益権を相続した者が収益受益権を相続するときにもまた評価額で課税される可能性があるようです。

具体的には専門の税理士に相談しましょう。

収益受益権と元本受益権をわけた場合の受益者連続型信託

【第9条の3((受益者連続型信託の特例))関係】|国税庁
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