ROE5%を達成できない役員はクビです!【2021年】

企業価値の向上

日本企業の株主還元は増加している

日本企業の株主還元はずっと増えていて、特に最近では自社株買いが増加していて、コーポレートガバナンス改革による効果といわれています。

しかし、コーポレートガバナンス・コードへ対応する様子を会社の中から見ていて、それらしい作文をしているだけで、とても何かしらを変えるメカニズムを感じませんでした(担当者はみんな真面目に頑張っていますが)。

スチュワードシップ・コード

投資家のスチュワードシップ・コードへの対応はどうでしょうか?

機関投資家の議決権行使基準をみてみると、取締役の選任は、ほぼROE 5%が基準になっていて、実績として5-40%くらい反対しているようです。

業績への不満の表明は、取締役の選任に現れます。
取締役の選任にROEの数値基準があって、反対の実績もどんどん増えています。
投資家の圧力があるので、ROEをあげるため株主還元を増やしている、ということのようです!

うちの会社は結構きわどい?みなさんの会社は?

私の勤務先はROE5%は達成できていません。気になるので、メインバンクと同じグループの機関投資家の議決権行使基準と議決権行使結果をみてみます。

議決権行使基準からすると、私の勤務先の取締役選任は反対されてもしょうがない業績でしたが、全部賛成でした。みなさんの会社はどうでしょうか?

株主還元増加の背景

「業績が悪いと取締役に責任を取らせて交代させる」、「余剰資金は吐き出させる」は村上ファンドの口から出るとずいぶん叩かれましたが、今では主な機関投資家はみな数値基準付きで、これらを議決権行使基準として定めています。

一般には、伊藤レポートのROE 8%が目安として取り上げられることもありますが、実質的に、上場企業の社長さんたちがプレッシャーを受けているのは、機関投資家の合格ラインROE 5%だと思います。

機関投資家との「対話」を通して、自社株買い(自己資本を減らしてROEを上げる)が近年増えているのではないでしょうか。

機関投資家との対話(筆者の妄想)
ROE 5%を達成してもらわないと我々も困るんですよ。『ちゃんと対話しているのか?結果が出ないなら取締役選任に反対しろよ!』て金融庁に怒られるんです。

議決権行使助言会社

議決権行使助言会社は、 ISSとグラスルイスで寡占状態にあります。
助言会社の動向は新聞でも取り上げられますが、実際、日本でどのくらい影響があるのか、よくわかりません。

日本の機関投資家の議決権行使の動向は、数も限られており、個別に議決権行使基準と結果が公表されているので、各社の議決権行使基準と結果をざっと読んでいけば、だいたいの傾向はつかめます。

外国の機関投資家の議決権行使の動向については、ISSとグラスルイスの議決権行使助言基準が参考になるかもしれません(何もないよりはマシなくらい?)。それと、日本の機関投資家の基準がどう変化していくか、将来を占うには参考になると思います。

ISSの議決権行使助言基準

経営についてどうみているか、となると、やはり、取締役の選任基準をみてみます。
ISSのサイトでは、各国別の議決権行使助言基準が確認できます。(ISS議決権助言基準(日本版))

【ISS日本基準】取締役選任の基準(監査役会設置会社*)2021年度

資本生産性が低く(過去 5 期平均の自己資本利益率[ROE]が 5%を下回り)かつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役
株主総会後の取締役会に占める社外取締役が 2 名未満の場合、経営トップである取締役
(注)2022.2より、「社外取締役の割合が 3 分の 1 未満である場合、経営トップである取締役に反対を推奨する。」となる予定。
親会社や支配株主を持つ会社において、株主総会後の取締役会に占める (1) ISS の独立性基準を満た
す社外取締役が 2 名未満の場合、または (2) ISS の独立性基準を満たす社外取締役の割合が 3 分の 1 未
満の場合、経営トップである取締役
前会計年度における取締役会の出席率が 75%未満の社外取締役

でました!ROE5%!

やはり、ISSにあるんですね!ROE5%基準。グローバル基準か?と一瞬思いましたが、U.S.の基準を見たらROE基準はありませんでした🙄
*新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえ、2020年6月からROE基準は停止されています。

ISS日本基準】解説
資本生産性基準
日本企業の資本生産性は欧米企業と比較して一般的に低く、これは日本における株式投資の収益性が数十年にわたり低く推移している一因とも言われる。資本生産性が低い要因として、過大な内部留保、株式持合い、不採算事業からの撤退などの事業再編への消極姿勢などが挙げられる。日本の規制当局や、ROE を取締役選任議案の賛否判断に勘案する機関投資家は、資本生産性の低迷を深刻な問題と認識している。
ISS が ROE の基準を 5%と定めたのは、日本企業に投資する機関投資家との議論に基づき、日本の株式市場のリスクプレミアム等を考慮し、投資家が許容できる最低限の資本生産性の水準との判断による。ROE5%は最低水準であり、日本企業が目指すべきゴールとの位置づけではない。

どうやら、ISSは日本の機関投資家にヒアリングして「日本独自基準」として導入したようです。「日本企業は資本生産性が低い」という言い回しなど、伊藤レポートの影響強し!な感じがあります。(伊藤レポートではROE8%でしたが)

ROE5%は日本のローカル・ルール!

将来的に日本の機関投資家の基準がどう変化していくか、参考までにU.S.基準を見てみると、業績に係る明確な数値基準はないようです。そのほか、独立社外取締役は50%以上で過剰な兼任はだめ、取締役について、女性取締役がいない、人種的民族的に明らかに偏っているなどはだめ、などとなっています。

*元の日本語資料では、「監査役設置会社」となっていますが、上場企業が前提なので「監査役設置会社」としました。この理解でいいと思いますがいかがでしょう?

グラスルイスの議決権行使助言基準

グラスルイスのサイトでも、各国別の議決権行使助言基準が確認できます。(グラスルイス議決権助言基準(日本版)

日本のところをみてみると、グラスルイスでは取締役選任に対し、ROE5%の基準はありません。

ROE5%のほか、業績に数値基準自体がありませんが、悪い時は選任に反対すべきとはされています。

当該企業の業績が、類似会社に比べ、継続的な業績不振 で、かつ、取締役会が合理的な措置を講じていない場合 取締役全員に対して反対助言を行う。

政策保有株式に数値基準を設定

グラスルイスでは、2021年より、ISSでは2022年から、多すぎる政策保有株式に数値基準を設定します。数値基準設定の動きは日本の機関投資家にも広がるのでしょうか?

グラスルイス
2021年より、原則として、「保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式」の「貸借対照表計上額の合計額」が連結純資産と比較して10%以上の場合、会長(会長職が無い場合、社長等の経営トップ)に反対助言を行う。国際会計基準を採用している企業の場合、資本合計と比較する。この方針に使用する情報は、前年度の有価証券報告書の数値を使用する。ただし、この方針に関連する直近の数値を開示している企業については、その最新の数値を使用して精査する。
しかしながら、基準値を超える政策保有株式を保有していると確認できる場合においても、明確な削減計画を開示し、さらに政策保有株式が減少していると確認できる場合や、株式の政策保有が事業戦略上、必要である旨の明確な開示があり、弊社が合理的だと判断できる場合は、反対助言を見送ることがある。

ISS
いわゆる政策保有株式の過度な保有が認められる企業(政策保有株式の保有額が純資産の 20%以上の場合)は、経営トップである取締役に対して反対を推奨する基準を 2022 年 2 月から導入する。

日本の機関投資家

取締役の選任への反対比率は、銀行系が10-40%とかなり尖っています。
生保系は総じて反対比率が低く、緊張感がありません(明治安田生命保険が0%とか、なんとも牧歌的な世界。個人的な感想です)。

資産管理専門銀行には注意!

「大株主」は有報か事業報告に記載されていますが、資産管理専門銀行には注意してください。資産管理専門銀行は、委託者の資産の管理業務を行っており、株主名簿に記載されてはいますが、自身が資産運用の裁量権や株主総会の議決権を持っているわけではありません。

資産管理専門銀行の向こう側で議決権を行使している委託者は有報や事業報告の「大株主」からはわかりませんが、個別の機関投資家の議決権行使結果をみて推測はできます(それぞれのwebサイトで)。

日本には2つの資産管理専門銀行があります。

日本マスタートラスト信託銀行
三菱UFJ 信託銀行・日本生命保険・明治安田生命保険・農中信託銀行の共同出資で2000年5月に設立されています。

日本カストディ銀行
2020年7月、日本トラスティ・サービス信託銀行と資産管理サービス信託銀行が経営統合し、日本カストディ銀行となりました。

日本トラスティ・サービス信託銀行
三井住友トラスト・ホールディングス・りそな銀行の共同出資で2000年6月に設立されています。

資産管理サービス信託銀行
みずほフィナンシャルグループ・第一生命保険・朝日生命保険・明治安田生命保険・富国生命保険の共同出資で2001年1月に設立されています。2016年かんぽ生命保険資本参加。

銀行系機関投資家

最新の状況と、確認できる中で一番古いものをメモしました。

三菱UFJ 信託銀行
取締役の選任 ⇒3期連続ROE平均が5%を下回る
2021.4-6 賛成9996 反対3284 反対比率25%
2020.4-6 賛成7949 反対4862 反対比率38%
2013年度 賛成1286 反対384 反対比率23% 

三井住友トラスト・アセットマネジメント
取締役の選任 ⇒ROEがTOPIX構成銘柄全体の上位75%タイル水準以上
2020.7-2021.6 賛成15359 反対4025 反対比率21%
2019.7-2020.6 賛成13595 反対3978 反対比率23%
2013.5,6 賛成1207 反対151 反対比率11.2%

アセットマネジメントOne(みずほ系)
取締役の選任 ⇒過去3期ROE平均が5%を下回る、かつ 東証一部 ROE下位1/3
2021.5-6 賛成11426 反対2003
2020.5-6 賛成10958 反対2077
2017.5-6 賛成1338 反対552

みずほ信託銀行
取締役の選任 ⇒業績の数値基準なし
2021.4-6 賛成11267 反対1996 反対比率15%
2020.4-6 賛成10731 反対2001 反対比率16%
2017.4-6 賛成11704 反対1766 反対比率13%

りそなアセットマネジメント
取締役の選任 ⇒3 年連続ROE5%未満、かつ ネットキャッシュが過大(総資産の 25%以上)または業種別でROEが3年連続下位25%以下
2020.7-21.6 賛成15253 反対2016 反対比率12%
2019.7-20.6 賛成11543 反対1162 反対比率9%
2018.7-19.6 賛成15136 反対1619 反対比率10%

生保系機関投資家

最新の状況と、確認できる中で一番古いものをメモしました。

日本生命保険
取締役の選任 ⇒5期連続ROEが5%を下回る
2021.4-6 賛成1467 反対45
2020.4-6 賛成1459 反対33
2019.4-6 賛成1584 反対34

ニッセイアセットマネジメント
取締役の選任 ⇒3期連続でROEが上場企業の下位25%、かつ 3期の株価リターンが業種平均以下
2021.4-6 賛成11024 反対1426
2020.4-6 賛成10898 反対1108
2010.4-6 賛成1190 反対66

明治安田生命保険
取締役の選任 ⇒5期連続ROEが5%を下回り、かつ株価騰落率が東証株価指数および東証業種別株価指数の騰落率を50ポイント超下回る企業は、在任期間が長期(6年以上)にわたる再任候補者について要精査
2021.4-6 まだ公表されていない
2020.4-6 賛成8024 反対27 反対比率0%

第一生命保険
取締役の選任 ⇒5期連続ROE5%未満
2021.4-6 賛成1052 反対105 反対比率9%
2020.4-6 賛成1019 反対112 反対比率10%
2016.4-17.6 賛成2152 反対10 反対比率1%

富国生命保険(特別勘定)
取締役の選任 ⇒3期連続ROE5%未満
2020.7-2021.6 まだ公表されていない
2019.7-2020.6 賛成760 反対14

その他機関投資家

最新の状況と、確認できる中で一番古いものをメモしました。

野村アセットマネジメント
取締役の選任 ⇒3期連続ROE5%を下回るかつ業界の中央値未満
*モニタリング・ボードの要件として政策保有株式の数値基準あり
 投下資本(純資産+有利子負債)の10%以上
2021.4-6 賛成12936 反対861 反対比率6%
2020.4-6 賛成12601 反対700 反対比率5%
2017.4-6 賛成13140 反対790 反対比率6%

農林中金全共連アセットマネジメント
取締役の選任 ⇒ 過去5期平均ROEが5%を下回る
2021.5-6 賛成12472 反対492 反対比率4%
2020.5-6 賛成11884 反対605 反対比率5%

フィデリティ投信
取締役の選任 ⇒なし
行使結果のサイト
2021.4-6 賛成12641 反対538
2020.4-6 賛成12070 反対664
2017.5-6 賛成6259 反対213

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