日本企業の株主還元は増加している
日本企業の株主還元はずっと増えていて、特に最近では自社株買いが増加していて、コーポレートガバナンス改革による効果といわれています。
しかし、コーポレートガバナンス・コードへ対応する様子を会社の中から見ていて、それらしい作文をしているだけで、とても何かしらを変えるメカニズムを感じませんでした(担当者はみんな真面目に頑張っていますが)。
スチュワードシップ・コード
投資家のスチュワードシップ・コードへの対応はどうでしょうか?
機関投資家の議決権行使基準をみてみると、取締役の選任は、ほぼROE 5%が基準になっていて、実績として5-40%くらい反対しているようです。
実際に数値基準があって、反対の実績も結構ある、これか!
うちの会社は結構きわどい?みなさんの会社は?
調べていて気になったのが、私の勤務先が属する企業グループの仲間?である機関投資家の議決権行使基準では、私の勤務先の取締役はクビにしなければならない!?
私の勤務先に対する議決権行使結果を見てみました。行使基準からすると、反対されてもしょうがない業績でしたが、取締役の選任は全部賛成でした。まだグループの結束は固いようです(建前では『グループの結束』はだめです。もちろん)。
みなさんの会社はどうでしょうか?
株主還元増加の背景
機関投資家が議決権行使基準で定めた、「業績が悪いと取締役に責任を取らせて交代させる」、「余剰資金は吐き出させる」は村上ファンドの口から出るとずいぶん叩かれましたが、今では主な機関投資家はみな数値基準付きで定めています。
一般には、伊藤レポートのROE 8%がよくいわれますが、実質的に、上場企業の社長さんたちがプレッシャーを受けているのは、機関投資家の合格ラインROE 5%だと思います。
機関投資家との「対話」を通して、自社株買い(自己資本を減らしてROEを上げる)が近年増えているのではないでしょうか。
機関投資家との対話(筆者の妄想)
ROE 5%を達成してもらわないと我々も困るんですよ。『ちゃんと対話しているのか?結果が出ないなら取締役選任に反対しろよ!』て金融庁に怒られるんです。
機関投資家
取締役の選任への反対比率は、メガバンク系が20-40%とかなり尖っています。
生保系は総じて反対比率が低く、緊張感がありません(個人的な感想です。すみません)。明治安田生命保険が0%とか、富国生命保険が開示を忘れているとか、日本生命保険が乾汽船とアルファレオファンドとのシビアなプロキシーファイトの緊迫した場面で議決権間違えちゃった(嘘だろ?と思いましたが)、とか、なんとも牧歌的な世界。
資産管理専門銀行には注意!
「大株主」は有報か事業報告に記載されていますが、資産管理専門銀行には注意してください。資産管理専門銀行は、委託者の資産の管理業務を行っており、株主名簿に記載されてはいますが、自身が資産運用の裁量権や株主総会の議決権を持っているわけではありません。
資産管理専門銀行の向こう側で議決権を行使している委託者は有報や事業報告の「大株主」からはわかりませんが、個別の機関投資家の議決権行使結果をみて推測はできます(それぞれのwebサイトで)。
日本には2つの資産管理専門銀行があります。
日本マスタートラスト信託銀行
三菱UFJ 信託銀行・日本生命保険・明治安田生命保険・農中信託銀行の共同出資で2000年5月に設立されています。
日本カストディ銀行
2020年7月、日本トラスティ・サービス信託銀行と資産管理サービス信託銀行が経営統合し、日本カストディ銀行となりました。
日本トラスティ・サービス信託銀行
三井住友トラスト・ホールディングス・りそな銀行の共同出資で2000年6月に設立されています。
資産管理サービス信託銀行
みずほフィナンシャルグループ・第一生命保険・朝日生命保険・明治安田生命保険・富国生命保険の共同出資で2001年1月に設立されています。2016年かんぽ生命保険資本参加。
3メガバンク系機関投資家
三菱UFJ 信託銀行
業績の数値基準で取締役の選任に反対
⇒ ROE5%を下回る
⇒ 2020.4-6 賛成7949 反対4862 反対比率38%
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求)
⇒ ROE3%・総還元性向30%・自己資本比率30%
⇒ 2020.4-6 賛成1068 反対18 反対比率2%
三井住友トラスト・アセットマネジメント
業績の数値基準で取締役の選任に反対
⇒ ROEがTOPIX構成銘柄全体の上位75%タイル水準以上
⇒ 2019.7-2020.6 賛成13595 反対3978 反対比率23%
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 配当性向30%
⇒ 2019.7-2020.6 賛成1521 反対15 反対比率1%
アセットマネジメントOne(みずほ系)
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE5%を下回るかつ東証一部 ROE下位1/3
⇒ 2020.5-6 賛成10958 反対2077
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 総還元性向30%かつROE8%未満
⇒ 2020.5-6 賛成1084 反対2
みずほ信託銀行
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ なし
⇒ 2020.4-6 賛成10731 反対2001
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ なし
⇒ 2020.4-6 賛成1067 反対3
生保系機関投資家
日本生命保険
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE5%を下回る
⇒ 2020.4-6 賛成1459 反対33
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 総還元性向30%
⇒ 2020.4-6 賛成870 反対9
ニッセイアセットマネジメント
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE上場企業下位25%・株価リターン業種平均以下
⇒ 2020.4-6 賛成10898 反対1108
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 配当性向25%・ROE市場平均以下
⇒ 2020.4-6 賛成991 反対25
明治安田生命保険
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE5%を下回る
⇒ 2020.4-6 賛成8024 反対27 反対比率0%
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 総還元性向30%・自己資本比率50%
⇒ 2020.4-6 賛成710 反対1 反対比率0%
第一生命保険
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE3%を下回る
⇒ 2020.4-6 賛成1019 反対112 反対比率10%
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 総還元性向20%・自己資本比率50%
⇒ 2020.4-6 賛成825 反対13 反対比率2%
富国生命保険(特別勘定)
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ 赤字
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 配当性向30%・ROE5%
議決権行使結果が2018年度までしか開示されていません。
中の人、大丈夫ですか?
その他機関投資家
野村アセットマネジメント
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE5%を下回るかつ業界の中央値未満
⇒ 2020.4-6 賛成12601 反対700 反対比率5%
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 総還元性向50%・ROE8%
⇒ 2020.4-6 賛成1134 反対2 反対比率0%
フィデリティ投信
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ なし
⇒ 2020.4-6 賛成12070 反対664
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ なし
⇒ 2020.4-6 賛成1071 反対3
農林中金全共連アセットマネジメント
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE5%を下回る
⇒ 2020.5-6 賛成11884 反対605 反対比率5%
数値基準で剰余金の処分に反対(増配要求) ⇒ 配当性向15%
⇒ 2020.5-6 賛成1035 反対2 反対比率0%
りそなアセットマネジメント銀行
業績の数値基準で取締役の選任に反対 ⇒ ROE5%+α
⇒ 2020.4-6 賛成11543 反対1162 反対比率9%
増配を求め数値基準で剰余金の処分に反対 ⇒ 総還元性向50%+α
⇒ 2020.4-6 賛成1008 反対61 反対比率6%